諦めなければ救いの神あり。
必ず道は開ける。
予約していた病院から、他の病院を探すためセミナーの方に相談の電話をした。
「そこの先生は野良猫扱いが出来ると思っていたのに、仕方ないから他を探してみよう。ここの病院はどう?」と言われ自転車で来ていた私は行ける距離かを聞いた。
「ちょっと距離あるけど頑張れば行けると思う。タクシーで行くのはどう?」
今、自転車でまあちゃんをどしゃ降りの雨の中捕獲器に入れたまま走るなんて出来ない。もし、まあちゃんが寒さで死んでしまったらどうしよう。と思うと涙が止まらなかった。
「とりあえず、病院開いたら電話で聞いてみるから、そうしたらメールするね。」と言われた後、電話を切った。
他の人にも「「緊急事態です!」
とメールをして返信を待ちながら自分もスマホで病院を探しまくった。
近所に動物病院はたくさんあった。
しかし、野良猫が対応出来るかは確認しないとわからなかった。
電話してみると
「野良猫でも飼い猫でも大丈夫ですよ。血液検査の時も麻酔はしますが、必ず亡くなるとは限りません」と言われ、私からしてみれば今の状態が最悪の中、助けてくれるかも知れない病院が見つかったと思い、何度もお礼を言い
「では、これから向かいますと言って電話を切った。」
すると、メールがあり
「さっきの病院に電話したら夫婦でやっているから、暴れちゃうようなら一緒に押さえてもらうことになる。あと、無理矢理押さえちゃうとトラウマになる恐れもあるけど、それでも良いなら連れてきてと言ってたよ。また迷っちゃうね」
と言われる。
まあちゃんが捕獲器から出した後の状況は全くわからない。
その後電話で、私が探した病院の事を話すと、
「えっまた麻酔!何でなんだろう、やっぱり野良猫扱うにはネットとかいろいろ対応する道具が必要なんだけど、揃ってないんだろうね。」
その病院に行くことを伝えたが、また迷いが襲ってきた。
一体どうすれば良いのか何が正解なのかが、もうわからなくなっていた。
私の悪い癖、「人の意見を受け入れられない。」
これが一番の悪循環を生んでしまった。
とりあえずちょっと考えると伝え、家に一度帰ることにした。
帰宅途中に、もう一人の方から電話がきた。
「どうしたの?何かあったの?」と言われ経緯を話すと私の行っていた病院が野良猫扱いが出来る先生だから電話していってみたら?」と言ってくれた。
だが、気温もどんどん下がり雨も強い中びしょ濡れになり、心はもう諦めと共にこのまままあちゃんをもとに戻そうという感情がわいてきた。
薦めて頂いた病院はタクシーでもかなり距離があり、知らない土地だ。
そこに鳴き叫ぶまあちゃんを連れて行く勇気が残って居なかった。
私は、とりあえず帰宅を一番に考え自転車を押していた。
すると、電話が鳴り
「猫や飼い主の安全の為に麻酔はしたほうが良いらしいよ」
「すみません、とりあえず帰ります。見つからなければ戻します。」
「え!だめだよせっかく捕獲したのに、タクシー代出してあげるから行ってみたら?」
「今、道路なんでまた家に着いたら電話します」こんな会話が続いた。
とにかく、まあちゃんの鳴き声を聞く度に涙は止まらない。
私自身も雨に濡れ寒くてたまらない心はボロボロになっていた。
なんで、こんな事になってしまったのだろう。
まあちゃんに恐怖をたくさん与えて、もしこのまま戻してしまったら餌も食べに来られず二度と会えず死んでしまったらどうしよう。
こんな感情が私の頭をグルグル回っていた。
自転車を押しながら、考えた。
もし、まあちゃんを元の所に戻しても、親友のモモも居るし大丈夫。
どうせ戻すのなら、電話で確認してくれた夫婦の病院に行ってからでも遅くはない。
やっと貴重なアドバイスに耳を傾けられた瞬間である。
家に着き、セミナーの人に電話を入れ、行くことを伝えた。
「タクシーは、この会社なら何度も利用していて断られた事ないから」
と教えてくださった。
タクシー会社に電話をすると
「5分ほどで、お迎えに参ります。」
「あの~猫を入れた捕獲器も一緒に乗せますが良いですか?」
「大丈夫ですよ。ちゃんとかごに入っていれば」と言われホッとした。
タクシーが来る前に、捕獲器の下にビニールを敷き汚れないように配慮して到着を待った。
タクシーが見え停車した後、乗り込んだ。
「汚れないように、足の下に置きますから」と伝えると
「大丈夫ですよ。」
「ほんとに乗せてくださって有り難うございます」と行き先の住所を言うと
「ああ!そこ知っていますよ。たまに走るとビルの壁にペットの病院と書いてありますからね」
「ご存じでしたか!良かったです。宜しくお願いします」
すると、まあちゃんが鳴き叫び始めわたしが謝ると、
タクシーの運転手さんはこう話してくれた。
「ちゃんとかごに入れていれば動物でも大丈夫なんですよ。こないだは大型犬のレトリバーでケージが大きかったし大人しいこともあり、出して前のシートに立って掴まっていながら運びました。
嫌がる運転手もいるかも知れませんが、拒否は出来ませんよ。
だって乗車拒否になりますからね。」
「そうなのですね!それを聞いて安心しました。私みたいに思ってる人いると思うので嬉しいです。これからも宜しくお願いします」
と話してるうちに無事病院に到着した。
こんな、動物好きの運転手さんに当たるなんて運が向いてきたかもとちょっと嬉しくなった。
やはり、ちゃんと人の言うことは素直に受け入れて聞くものであると、またまた反省した。
タクシーがまるでノアの方舟のように感じるくらい嬉しかった。
「タクシー大丈夫だよ」と言って下さった方に大感謝である。
病院のドアを開け
「先程電話して確認をとってもらった者ですが。」
「ああ聞いてます。じゃあこれ記入して」
初診情報を書き、助成金の書類を渡し診察室へ向かった。
その病院は奥に入院室があるが、猫を沢山飼っていて猫達が診察室を歩いていた。
猫好きには嬉しくてたまらない場所だった。
「じゃあ捕獲器からこのネットに猫を移すから」
と言われ急いで手袋をはめて準備した。
先生達は素手だった。
「捕獲器を縦にしたらネットに行くようにするわよ」
というと捕獲器を縦にすると二ャー二ャーとまあちゃんが叫びながら待ち構えていたネットにコロンと入った。
「はい!あなたここ持ってて」と入り口の紐をきゅっとして渡された。
捕獲器を持って移動していた時もそうだが、まあちゃんは軽かった。
うちの飼い猫は5キロあったのだが、比べると持ってないと思うくらい軽かった。
先生には、体重、推定年齢、感染は無いか血液検査、ノミ回虫の駆除、爪切りをお願いした。
もちろん性別も聞いたがメス。
では、避妊手術は出来るか確認したが、
「この子は10歳位だけど野良猫だと20歳位だろうね。もう手術はしないで大丈夫だよ」
と言われた。
体重は3、5キロ。背中のかわがびよ~んと延びてしまい痩せていた。
「大きく見えるけど小さくて軽いわ~」
と先生が言った。
ネットに入ったまあちゃんは大人しく全く暴れる事はなかった。
血液検査の結果も他の事をしている間に陰性とわかりホッとした。
皮膚にあった傷は、かさぶたになっており消毒のみしてもらうと綺麗に取れてしまった。
ただ、爪だけは誰かに切ってもらっていたようで、短かった。
「傷も治りが良かったのは誰かに抗生剤を飲ませて貰っていたんじゃないかな?野良猫はいろんな人に名前を付けられて10個くらいあるからね。」
と先生達は笑っていた。
全て終わると、奥さん看護助手さんが、キャリーケースを持ってきた。
「帰りはこれに入れて帰れば良いわよ。返すのはいつでもいいから。」
とペットシーツを中に敷き、まあちゃんをネット事入れてくれた。
なんて手際の良さげなことか、キャリーバックも貸して下さるなんて!
この病院のご夫婦だからか、奥さんが旦那さんに確認して爪切りなど補助的な物をしていた。
一つ終わる度に旦那さんは後ろで見守り、血液検査の時は前にくる。
そんな感じだった。
奥さんがテキパキ動いていて連携も良かった。
それもあり、私も手伝いながら「はいはい!」と叫び一緒に動く事ができた。
処置や、検査が終わり結果待ちをしていると、猫達が歩いていたので奥の入院室の猫達を見ていいか聞いてみた。
「いいよ」と旦那さんが言って下さり、「可愛いですね~」というと、
定位置にいた先生が、一匹ずつ紹介してくれた。
あ~先生はかなりの猫好きなんだなと思った。話が止まらない。
「この猫は目にガンがあって、手術するか今迷っているんだよ」と言った。
見てみると、片方の目が飛び出していた。
なんて酷い病気があるのだろう。
私なら悲しむどころじゃない。
と、その猫を見ていた。
すると、後ろにいた真っ白い美人猫ちゃんが、ミャ~と鳴いていた。
先生に何歳くらいか聞くと、かなり高齢だったが毛並みがすごく綺麗だった。
大切にされているんだなと思った。
検査の結果が出て、感染症も無く陰性と聞き安心した。
もし陽性だったとしても、もう決心は固まっていたが陰性と聞くと嬉しかった。
まあちゃんに
「良かったね、よく長い間頑張ったね。早くかえって美味しい物沢山食べようね」
と話をした。
会計をすると、旦那さんが
「これ、いる?」
と、4月から使える猫のカレンダーを下さった。
急に来たのに良くして貰って、カレンダーまで!運が上がりまくりだった。
タクシーを待つ間、奥さんが「この病院を聞いた人とは、どこで知り合ったの?」
と聞いてきた。
「猫セミナーで知り合いました。」
「そうなのね」
と、話は早かった。
この病院は、私にはピタリと合っていた。
気も使うことも無く、居心地も良く、何よりアットホームな感じが安心出来た一番の理由だろう。
まあちゃんはどうだったかは不明である。
タクシーが着き先生達に礼を言い、乗り込んだ。
まだまだ雨は止まない。更にどしゃ降りになっていた。
帰りのタクシーでは、キャリーケースにまあちゃんが入っていたので安心して乗車した。
行き先を言いうと、また鳴き声がタクシー内に響いた。
「すみません猫です。」
謝らなくても良かったが、猫嫌いの運転手さんだと気まずいと思い、反射的に謝ってしまった。すると
「猫ですか?」
「そうです。今日捕獲したので鳴いちゃうと思うんです」
「え!あなたが捕獲したんですか?」
「はい、早朝3時にそれからずっと捕獲器だした。」
そう話すと運転手さんは、
「飼うの?」
「はい。」
「そうなのか~捕獲出来るんだ~」とちょっとビックリしていた。
「捕獲器も区役所が貸してくれるし、飼い主がいるか確認の為のチラシも作成してくれるので、この地区は安心です」
と話すと「区役所が!あっそうなんだ!区役所がしてくれると良いね」と言っていた。
「私も、まさかそこまでしてくれるとは思っていませんでしたが、他にもいろんな人に助けてもらって捕獲成功したのですよ。」
とベラベラと話し込んでいた。
あっという間に到着した。
タクシーの運転手さんも気さく肩で、タクシー内にまあちゃんの臭いがかなり充満していたが、嫌な顔せず送り届けてくれた。